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その手は、年相応に節くれ立ち、また仕事によるものだろう、古く細かい傷跡だらけだ。
曽祖父の代から続く材木問屋。私達はその建物の上に住んでいる。
1階が店舗、2階が祖父の家、3階が母の仕事場とリビングダイニング、4階が母と私の寝室。と言っても母は大抵いつも仕事場にあるソファで寝てしまうのだけど。
母はフリーのライターで、普段は家で仕事をしているが、仕事の内容によっては打合せや取材に同行したり、夜飲みに行くことも多い。今日遅いのもそんなところだろう。
あ、あるいは彼氏ができたとか?……いや、無いな。
「っまちどー、生2つと、枝豆。あと鶏ポンね」
思考に割り込むように、底抜けに明るい声が上から降ってきた。
「え、晴ちゃん、頼んでないものが混じってるけど?」
ドンドン、と卓上に並べられていくグラスや皿を見て、思わず声を上げた。
「”まだ”頼んでない、だろ」
私を見下ろしニヤリと笑う看板息子。鶏ポンはこの店の人気メニューで、私の大好物だ。
「まあ……そうなんだけど」
大人しく座り直すと、満足そうに頷く晴ちゃん。
「ほんと気が利くよね……晴ちゃん」
「だろー、いい婿になるぜ」
「あははは、まさかの婚活中」
思い切り笑って肩をバシバシ叩いた。
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