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彼は絵馬を見ながら歩き始めた。私は彼女が立ち去った方を振り返るが、彼女の姿はどこにもなかった。
そのまま所轄ヘ歩みを進める。
「おいおい、お前さんらよぉ。何ぬけがけしてんだ! 朝からデートしてんのか?
いいご身分じゃないか!」
そんな声で迎えてくれたのは、上岡警部。五十八歳。昭和元年産まれ。バリバリ戦争を経験している、警部だ。白髪交じりで背が高い、ヤクザ顔のおじさんである。私の父より一つ下だ。
刑事というより、ヤクザが似合う。マルボウが似合うと私は思う。
「す、すみません。デートではありません」
私は咄嗟に頭を下げた。巡査の分際で警部に逆らえる訳がない。
「あの、ちゃーんとお土産買ってきましたから」
私は袋を目の上の高さに持って見せた。
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