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「なんだよ・・そんな言い方しなくたっていいじゃん」
高峰は腕を組んで不貞腐れたように窓の外へ顔を向ける。それを静かに見つめる光一郎は嫌でも気づいてしまう。
高峰の肩が微かに震えていることに。
「・・分かった、もうこの話はやめにしよう」
光一郎もメガネの縁を指で押し上げて車外へと視線を走らせた。
ここで高峰を責め立てたところで光一郎の長年抱えていた霧は晴れないのも分かっていた。引き下がるしかない。
ただ、高峰が側にいればって、
思うことばかりで。
でも光一郎の気持ちを今もなお、押し付けるのはエゴでしかないのだろうか。ずっと喉に引っかかって飲み込めないでいるせいで、あんな夢まで見てしまうと言うのに。
今朝方の夢の中の高峰と目の前にいる高峰は、まったくもって変わっていない。
けれどもう戻ることは出来ないのだ。いくら戻りたいと願っても。
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