石を積むということ

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「いいんです」 「お客さん、優しいですね」  何も事情を知らない運転手のおじさんはニコニコと高峰の苦笑を誘った。 「・・いいえ、昔から、そーゆう感じなんで」  我侭で偏屈で堅物な同級生。才能溢れて、誰とも群れない、孤高とも評される光一郎と相棒として組むうちに高峰は己から献身を捧げることを厭わなくなっていた。  それはそれは自分でも怖いほど。  見返りを求めない献身ならば、美しい友情として青春の一ページにでも残せておけただろう。  運転手のおじさんが言うように優しさで片がつくのかも知れない。  人が良すぎるとか、尽くしすぎだとか、そんな問題ではない。  ほの暗い欲望はまだ枯渇していない。  光一郎を目の当たりにしてまざまざと己の醜い欲望を思い知らされる。
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