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「馬鹿者っ、俺は割り込みなどしない!」
事故のせいでダイヤは狂い、今もタクシー待ちの行列は伸びている。その中で前方に並ぶ高峰のところに行くのは真面目な光一郎にとっては許されない行為であった。
『ふっ、そう言うと思った・・じゃあさ、俺がそっち行ってもいい・・?』
「そろそろお前の順番が回ってくるだろう。わざわざこっちに並びなおす必要ない」
くいっとメガネの縁を指で押し上げる。
『一緒に乗った方が安く済むでしょー。俺は光ちゃんみたいに給料よくないんで、頼みますよー、割勘しよう?』
高峰が嫌味っぽく、けれど最もな理由みたく言う。あくまで自分のためだという風に。
「・・・・どうせ俺の話などお前は聞かないんだろう。好きにしろ」
光一郎がどう言えば折れるのか知っている友人は『ありがとっ、光ちゃん』明るく屈託のない声で返事をする。目を閉じていてもまざまざと浮かぶ笑顔。久しく合わしていない笑顔が近寄ってくる。
「光ちゃん、奇遇だねー」
まったくもって呆れるぐらい軽々しく話しかけてくる奴である。
高峰もスーツに身を包んでいた。
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