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そう言い残すと、芹澤くんの背中が人混みの中に消えた。
――お母さんと二人暮らしだと言うのは聞いていた。だから、自分のお弁当を作るのは当たり前なんだと。
駅から歩く事、十分。
「お邪魔します」
濡れた足のまま上がれず、三和土に立ちすくんでいると、タオルが目の前に差し出された。
「何飲む? 紅茶でいいか?」
「あ、うん、ありがとう」
とりあえずテレビを付けるのが習慣になっているのか、リモコンを操作すると、芹澤くんはキッチンに立った。
どうしたらいいのかわからず、テレビを凝視する。
画面左上に11:30の表示。
「昼メシでもいい時間だな。何か作るか。あずみ、嫌いな物ある?」
「えっ、ないけど……」
「よし」
そう言うと冷蔵庫を物色し始めた。
「あ、私も手伝うよ」
「いいよ、座ってて」
芹澤くんは卵を割りほぐしながら着席を促す。
「じゃ、ここで見てる」
キッチンの側に立ち、料理する姿を見守った。
無言で玉ねぎを刻み、鶏肉を一口大にし、フライパンにはバター。ケチャップ。塩、こしょう。
チキンライスが黄色い膜で手早く包み込まれ、お皿の上に鎮座する。
芹澤くんはケチャップを突き出し「書く?」と一言放った。
私は黄色いキャンバスの上にケチャップで笑顔を作る。
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