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その反面、この名刺やタクシーの乗務員証におきた怪現象のことを考えると、浦水はどちらも知っている気がするのだ。
彩菜はその日一日、仕事に集中できないまま過ごした。
夜になり、彩菜は市内から電車を乗り継ぎ、自宅のマンション前に到着した。
ふと見ると、そのマンション前にタクシーが停車しており、浦水がタクシーの前に立っていた。
「恨み、晴れたようですな」
浦水が両手の平を彩菜に向かって差し出す。
「念じ代、頂戴しますわ」
浦水は微笑んだ。
彩菜はしらを切って拒否することもできたのたのだが、浦水の存在の不気味さに圧倒され、そこから早く解放されたいと思い、手早く一万円札を浦水に渡した。
浦水は笑顔で、
「おおきに」
と、挨拶をすると、のんびりとした足取りでタクシーに乗り込み、そのまま走り去るのだった。
彩菜は呆然と、タクシーが視界から消えるまで、いつまでもタクシーが走り去った方向を見ているのだった。
(終)
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