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コントレイル
「おい帰ろうぜ」
「うん……ちょっとまって」
彼女はそう言って熱心にスマホの画面を見つめていた。
彼氏は何を見ているのか気になって、彼女の背後からその画面をのぞき込んだ。
そこに映っていたのは細かい文字の羅列。それは所謂ネット小説に間違いなかった。
「もうちょっとで読み終わるから」
そう言うと彼女は彼氏に笑顔を見せてまたその瞳をスマホに向けるのだった。
「それ、面白いの?」
「……うん」
彼氏の質問に、彼女はどこか上の空で返事をする。彼氏は彼女のそんな態度に、少しだけ嫉妬した。
彼氏のオレより、小説のほうがいいのかよ、なんて子供っぽくやきもちを焼いて、ほんの少し目尻を吊り上げる。
彼氏は、スマホのネット小説に夢中になっている彼女の顔をまじまじと見つめていた。
本当に、その小説が面白いのだろう。彼女の瞳は他のものを一切映す事もなく、一途な程に注がれていた。
悔しいが、そんな彼女の顔がとても愛おしく、彼氏はくすりと笑ってしまう。
「どんな話なんだ?」
「恋愛小説。幼馴染の女の子と男の子がお互い好きなのに、なかなか言い出せなくて、頑張るの。……こういうの、あんまり好きじゃないよね、ゴメン」
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