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今までに見たこともないくらい、本当に優しい真摯な顔でわらった幸彦は、本当は優しくもなければ真摯なわけでもなく、ましてや鈍感なわけでもない。ただのずるい男だ。わたしが言いたかったことも、その煙草の行くべきだった場所もみんなわかってるくせに。
幸彦が気づかない振りをして、わたしはそれに気づかない振りをして、幸彦はそれに気づかない。その気づかぬ振りの笑顔が、わたしの気持ちをより深く厄介なものにしていること。いっそ思いを真っ直ぐ伝えさせてくれたなら、わたしがこんなに幸彦を恋い慕うことはなかったかもしれないのに。
わたしの目が真っ直ぐに見つめていた幸彦の目はその笑顔とともにゆるく伏せられ、それから視線が交わることはなかった。それが幸彦の意思で、わたしと幸彦の間に起った全てだった。
わたしの手から幸彦の手に渡ったくしゃくしゃのセブンスター。幸彦が自らすすんでわたしに差し伸べた手の先に唯一あったもの。
やわらかな、余りにやわらかな拒絶。
こころじゅうにじんわりと広がった苦いものは確かに幸彦の毒だった。
【七つ星の恋の毒】終
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