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だから調子に乗って何本開けたかなんてちっとも覚えてなかったし、どうせこれくらいじゃつぶれないなんて高を括ってたわけなんだけど、星野がバイト先の酒屋から持ってきた焼酎やらなんやらでチャンポンのチャンポンになったグラスの中のアルコール度数なんてこの部屋にいる誰にもわかりはしなかった。
空しくわたしのバッグの外ポケットに収まったセブンスターのソフトパックは、封を開けられることなく玄関からの一部始終を見ていた。
小綺麗なままの煙草というのはどうにも居心地が悪そうで、思わずアルコールで痺れた手ですくいだし、それを握りしめた。同属意識がそうさせたのかもしれない。
小さな暴力に指先がひやりとして、ほんの少し気を失いそうだと思った。
宛先不明のセブンスター。
どうせならお前は同じくらいの値段でビール缶になれればよかったのにね。そしたらちゃんと行く先を見つけられただろうに可哀想なやつ。
『可哀想なのはおまえだよ』
幸彦がそんなことを言う道理はこれっぱかしもない。だからこれは酔っぱらったわたしの完全な被害妄想だけど、心は確かに紡がれたはずのない声にふるえた。
鼻筋の奥のほうがぎゅうとなって痛い。瞼に熱い膜が張る。おいおい、なんでこんなところで、そう思う間もなく視界はグニャグニャに滲んだ。
「は? 何泣いてんの、志水」
「だ、泣いてない」
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