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どうしてこういう余計なところに気づくヤツって必ずいるんだろう。お前だよ、星野。ああ、面倒くさい。幸彦がわたしの気持ちに気づいちゃったらどうすんだよ、いい加減にしろ。
でも幸彦はそれに気づいたところで、何も思わないだろう。本当に何にも。わたしに対して下卑た優越感を抱くこともなければ、嫌悪を抱くこともないだろうし、鬱陶しいとさえ思ってくれない。わたしの気持ちくらいでは、幸彦の心のひだに波風一つ立たすことは出来なくて、限りなく意味のないうすい微笑みが投げかけられるのが関の山だ。
だから幸彦はこうしてわたしを部屋にあげてくれるんだろうな。そんなことを考えられる程度に頭はスッキリしていて、涙と身体はやっぱり何か違うものだなあと場違いな感心をする。そんな間もわたしの涙は明らかに酒席を混乱させていて、おかしかった。
幸彦が何かを諦めたように気怠げにわたしにわらいかける。ああ、前から思っていたのだけど、こんなわらい方をするとき、あごから耳にかけてのラインがとても色っぽいのだ、幸彦は。
「おい、どっかいてーのか?」
「ちょ、ちがうよ。だから星野はバカなんだよ」
「うるせぇなあ。じゃあ急にどうしたんだよ」
「ふふ、何怒ってんの。なんかあれだよ、ほら……もののあはれ?」
「お前のたとえは意味わかんねぇよ! てかお前笑ってんじゃねーよ、人が心配してやってんのに」
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