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「星野がバカすぎて泣けてきたんですー」
「志水、てめぇ」
ぎゃあぎゃあうるさい星野やみんなを他所に、わたしはくしゃくしゃのセブンスターを開けて一本取り出し口に銜えた。前からこいつが羨ましかった。幸彦が自ら好んで傍に置いておくもの。幸彦が自分から差し伸べる手の先にあるものにわたしはなりたかったんだ。でもそれは無理だからせめて幸彦と同じ毒物で身体の中をいっぱいにしてしまいたかった。
「星野、火貸して」
「あれ、おまえ吸うっけ?」
「うん」
「やめとけ、志水。星野も真に受けてんじゃねーよ」
「あ、」
驚くほど淑やかに幸彦の指がわたしの唇から火が点いたばかりの煙草を奪っていった。一瞬見惚れたわたしを他所に、幸彦はそうするのが当たり前みたいにそれを自分の唇に銜える。わたしは幸彦と同じ毒物を咥内で軽くふかすことも叶わなかった。だけどそれは舌の上に確かにピリピリと甘い痺れを残していった。わぁ、間接キスだ。じゃなくて。これまでも幸彦のこういう線引きが何度となくわたしをときめかせ、苛立たせ、惨めにさせてきた。
ほんのさっきまで一緒にバカ笑いしてたじゃん。なのになんでわたしだけが女で、幸彦はわたしじゃだめなんだろう。
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