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七つ星の恋の毒
あなたが気づかない振りをして、わたしはそれに気づかない振りをして、わたしはあなたから逃げられない。
優しいね、お上手ね、でも最低だ。
「あ、悪い、俺煙草やめんだ。だからいいよ、サンキュな」
へ、と間抜けな声がぽとりとおちた。生意気にも南向きのワンルームの玄関で、逆光の彼方の幸彦がやんわりとそれを断り、七つ星のそいつはわたしの手のひらの上で行く先を失った。 買い出しのついでに買ってきたそれは本当にただの家主への気遣いで、今日は部屋を散らかすだろうなあとか、ご飯もご馳走になるしなあとか、そういったことへの気張りすぎないほんのお礼のつもりだった。他意も下心も全くない。だからいつもみたく軽口を叩いてそれを引っ込めれば良かったんだけど、一瞬反応が遅れた。
幸彦はなんてことない仕草でわたしから酒やらつまみやらの袋を受け取り、きょとんとしたわたしに吐息だけでうすくわらう。その穏やかなわらい方だけで煙草をやめる理由が幸彦にとってどれだけ大事なことなのかも十分過ぎるくらいにわかったし、わたしが幸彦に抱いてる気持ちなんてものは口に出すまでもなく無駄なものだということも残酷なくらいわかった。
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