アラミタマ③ ~十二日から十八日~

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 ばしゃんと、足元の水たまりの音をたて、ぐっしょり濡れた百田サクラは警戒の顔でこちらを見返した。まるで猫のように、いつでも逃げる事ができる警戒態勢を取り、足を軽く開きこちらの隙を伺う鋭い視線まで送って来た。 「お、覚えていませんか。ほら、先日――」  にこやかに笑顔を作って彼女に一歩近づくと、百田サクラは逃げようというのか素早く回れ右をして背を向けた。  ――逃がすかッ――!  とっさに彼女の手を掴んだ。細い腕で簡単に叩き折れそうだと思った。白い肌は刃を突き立てると、さぞかし綺麗な赤い花が咲くことだろう。  ついついそんな性癖を持ち上げてしまい、涎を零しそうになる。 「オレですよ。百田さん、三井です。刑事の――」 「離してっ……!」  なんだこの反応は?  オレが刑事だと分かって、逃げようというのか? それとも、殺人鬼の気配でも察知して怯えたのか?  なんにせよ、オレの事をまるで覚えていないように、こちらを振り払おうとする姿は奇妙に感じた。  こいつは、何者なんだ?  この間までは死臭もしなかったのに、なぜ今、死臭がしている? こちらを分かっていないのか? こいつは、モモタサクラではないのか?  オレが内心戸惑いながらも逃がすわけにはいかないとその身体を捕まえようとしたときだ。  ――がつんッ! 「うっ」  何かに勢いよくその手を叩かれてしまった。不意打ちの驚きと手首の痛みでオレは怯んでしまった。     
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