アラミタマ④ ~二十二日・新月~

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 妄想を実現したかったか、勘違いしたのか、実際の教え子に手を出したのが運のつきというわけだ。しかし、家宅捜索をしても、殺人の証拠になるものは見つかっていなかったのが、五十嵐警部を悩ませているのだろう。  オレは、缶コーヒーを片手に百田サクラの事を考えていた。  調べてみた処、やはり彼女は一人娘で間違いがなく、親類を当たってみたが、彼女と瓜二つという女性は見つからなかった。  では、あの死臭を纏うサクラはなんなのだろう。他人の空似というものがある事は知っている。実際にそういう人物は不思議なくらいいるもので、まったくの他人である可能性は捨てきれない。  なにせ、あの日の百田サクラ(偽)は、雨に濡れていたし、雰囲気がまるで違っているようにも見えた。  頼りにできるのは死臭の臭いだけ。オレは自分の鼻に神経を使う事にしたのだが、そこにヤニくさい五十嵐警部が息を吐き出して、オレに訊ねてきた。 「三井。オレぁ、あの教師はコロシてないと思ってる」 「へえ? 何でですか? 刑事の勘?」 「そうだ。刑事の勘っつーか、長年培った直感だ。前に、お前に聞いたろ。直感で答えろってよ」  そう言えばそんなこともあったか。だが直感も刑事の勘も明確な証拠にはならない。 「だいたいな、点と点だった感覚が線でつながるんだよ。分かるか」 「……まぁ、なんとなく」     
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