アラミタマ④ ~二十二日・新月~

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 ただ、こくりと頷くだけ返すのが精いっぱいだった。喉の奥を生唾が落ちていく。それをごくりと飲み込む音すら立てる事が嫌で、オレは口の中をしばらく唾液で満たしていた。 「ならいいんだがよォー。オレぁてっきり、『百田サクラの事を調べたが、ストーカー事件は調べてなかった』って意味に考えてな」 「はあ」 「だったら、『百田サクラの何を調べたんだ』と気になってなァ」 「……さっきも言ったように、『四谷ココロの事』を調べていました」 「そうかそうか。レストランで話を聞きに行った時のこたぁ、特に進展がなかったから、言ってなかっただけだよな」 「は」 「話は戻るがよ。オレぁ、長年培った経験でウソってのは大体分かる」 「……オレの話が嘘って言いたいんですか」 「そうは言わねェ。だが、嘘を吐いている人間は、嘘に嘘を重ねるからよぉ。話せば話すほど、ぼろが出てくるわなぁ。だから、まぁ嘘なんかつかねェにこしたこたぁ、ないわけだ」 「ですね」 「だから、口数が少なくなるわな」 「……なるほど」 「お前、今日ずいぶん大人しいじゃねえか。女子高生がタレコミしてくれたときゃあ、妊娠のことまでべらべらっと舌を動かしてたお前らしくねえなァ」 「……五十嵐さんが、ヤニ臭いからッス」 「ははは、オレぁ法律でタバコが禁止されたって吸い続けるぜ」  そう言って、五十嵐警部は手を振りながら去っていった。     
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