アラミタマ④ ~二十二日・新月~

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 オレは缶コーヒーに口を付けた。  中身の黒い液体を啜ろうとして、すでに中は空であることに気が付いて、オレはしばらく、その空の缶を口につけたままコーヒーを飲むフリをした。  背中に嫌な汗が伝い落ちていたのを気づかれずに済んだ。背広を脱げば、オレのシャツの背中は湿っていたことだろう――。  ――まずい。五十嵐はこちらを怪しんでいる。  まだ、オレが過去の事件に関わっているということにはたどり着いていないだろうが、オレの行動の違和感には気が付いているのだ。  オレは別に油断していたつもりはなかった。  だが、深層心理で、オレは今回の事件と過去の事件は無関係だという事を演出させたくて仕方なかったのだろう。だから、自分の発言の裏っかわの底の方まで覗き込まれたとき、蛇に睨まれたような気分になったのだ。  五十嵐は、ちょっと違和感でもとりあえず突っつくところから始める。  オレに感じたちょっとした違和感に微弱な力を与えてどう反応を示すのかを観察したのだ。  その結果オレは、今、致命的な反応を示した。  脅しには、証拠など必要ない。  相手にとって、それを突かれるとマズイ、と感じさせた時点で脅しは成功しているのだ。これが尋問の初歩だ。     
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