アラミタマ④ ~二十二日・新月~

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 五十嵐はそれに長けている。ベテランの刑事なのだ。  まずい。まずいまずいまずいまずいまずい!!  一刻も早く、この事件を収束させるべきだ。  この捜査が長引けば、無関係のオレの痛くない腹を探られて、別の疾患を見付けられる。  オレは、いよいよ行動に出なくてはならなくなった。  この事件の犯人を見付けなくては!  死臭だ。死臭を追うのだ。選ばれし特異性のある主人公のスキルのように。一見すると役に立ちそうもない能力が奇蹟を生む物語の如く――。  うっとおしいヤニの臭いを無視しろ。死臭を感じ取れ。ヤツが犯人なのだから。  オレは調査を行うために、署から出ようと思った。  その時、奇跡が起こった。オレは、その瞬間、神とか仏の存在を信じた。ひょっとすると、妖怪とか幽霊なんかもいるかもしれない。そのくらいに浮かれてしまう。そういう奇蹟をいま、体験した。 「あのう、こ、ここに八房という人が捕まっていませんか」  署の受付からそんな間の抜けた声が聞こえてきた。  オレはそちらを振り返り、かちんと静止したのである。  間抜けな声の主をオレは知っている。こいつは、あの雨の日、オレの手を傘で殴りつけたヤツだ。レストランで突然現れて頭を下げてきた阿呆だ。     
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