アラミタマ④ ~二十二日・新月~

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 そして、その傍にいる女性は、百田サクラで間違いなかった。  オレは『嗅ぎ分け』の能力を使う。――たばこの臭いがまだ鼻孔の奥にこびりついているようだったが、オレの鼻は標的を『クロ』だと判断した。  間抜けな男の隣にいるサクラから、強烈な死臭を感じ取れたのだ――。 「ミツケタゾ。ミツケタ。ミツケタ、ミツケタ、ミツケタ、ミツケタ、ミツケタ、ミツケタ」  オレの傍には、殺されたい少女が寄ってくる。  そんな風に感じていた。やはり、オレは引力を持っている。欲しいものが寄ってくるという引力が。  口の中で、ミツケタと何度も繰り返し、標的を見定める。もう逃がさないために。  いつしか、『標的』が何の標的になっているのか、自分でも曖昧になってきていた。  あいつを捕まえる。あいつを殺す。どっちだったか。  どっちでもいい。分かっているのは、アイツがバカな殺人を起こしたせいで、こちらの平穏が乱されつつあるということだ。  報復だ。思い知らせてやる。  この街で人殺しをしてもいいのは、オレだけだ。  オレの許可もなしに、コロシをやりやがって。  オレは、受付で不安げな顔をしている男と、死臭の女の前に顔を見せた。 「こんにちは。八房に会いたいんだって? 僕が担当だよ」     
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