クシミタマ① ~十四日~

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クシミタマ① ~十四日~

 六月の濡れた風は己の肌にまとわりつくようで好きではなかった。  その日六月十四日、テレビのニュースで変死体事件が報道された。朝からすでに報道されていたようだが、己の目にきちんとした情報として入ってきたのは、夕刻の六時であった。  その時は、それほど気にしなかったが、日付も変わった深夜二時過ぎに自室の窓を叩く音にひとみを開いた。  外は雨が降り続いていて、窓にあたる雨音かとも思うところだが、明らかな意思の見えるノックのリズムは、雨のそれではなかった。  寝床から起き上がり、カーテンを開くと、窓の外には一羽のカラスがいた。この雨の中飛んできたであろうに、そのカラスはまったく濡れていなかった。  夜の帳に浮き上がるようなカラスは、こちらをじっと見つめていた。早く中に入れろと言っているようだった。  窓のカギを外し、ガラリと引いて開けるとカラスがしゃべった。 「お邪魔するわね」  カラスの嘴がかちかちとなりながら、人語で語ったその摩訶不思議な存在は、現代に生きるカラス天狗であった。  その名を迦楼羅と云った。もう数百年に渡って生きているモノノケだ。     
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