クシミタマ① ~十四日~

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 カラスが部屋に入るなり、その姿を変形させて人間の影を浮かび上がらせると、やがてそこには一人の女性が現れた。 「こんばんは。悪いんだけど、シゴトよ」  妖艶な美女の姿を取った迦楼羅は、人間社会に紛れる時の姿であり、体の線が際立つようなぴっちりとしたスーツに身を包んだOLらしい。胸を露出して挑発的にシャツのボタンを開けているのを見ると、その胸の谷間から書簡を取り出した。  それをこちらに手渡してにんまりとルージュの唇を持ち上げた。  書簡を広げて中身を確認すると、『組織』の幹部からのお達しである判子が押されている。そこを指先で押しあてるようにすると、判の形が崩れていき、やがて幻影が書簡から浮き上がってくる。  妖術の一つで、人間の使うテレビ電話のようなものだ。  こうして、我ら妖怪は連絡を取り合う――。  ――そう、我らは妖怪だ。  現世に隠れ住むモノノケであり、闇の住人である。  西暦二千年を過ぎたあたりには完全に妖怪などは信じられる事はなくなったこの時代、確かに妖怪はこの世に存在していたのだ。  とかく妖怪にとって生きにくくなる世の中に、我らは『組織』を作り上げた。妖怪だけのコミュニティで、互いに助け合い、この人間の社会で過ごしていこうと発足したのがもう百年ほどまえになるだろうか。     
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