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そして、それを黒い影がむしゃりと口に運んで咀嚼する。コリコリとした弾力があり、旨そうに何度もくちゃくちゃという音がしていた。そこで残留思念は終了した。
「……ヒトクイの、好物はコブクロということか」
ヒトクイとは言え、丸のみにするようなタイプの妖怪ではないということか。どうやら子宮だけを狙ったようだし、そこから今回の妖怪の正体を探ることになりそうだ。
そう、相手も妖怪なのだ。
おそらく人間に擬態しているだろう。
人に化けた妖怪は、実力があればあるほど、その妖気も巧みに隠すことができる。だから、本性を見せ、妖怪の姿に戻った時でなければこちらとしても手出しができない。
まずは、情報だ。妖怪を見付けるための情報が必要だ。
幸いにもこの被害者の少女は、宿主の人間に近しいところの者である。
調査はやりやすいかもしれない。
「月夜のヒトクイ妖怪、か」
我は一言そう零し、音もなく跳躍した。
目の前の二メートルほどのコンクリの壁などは軽々と超え、その上にある民家の屋根に着地する。
今だに雨は降り続き、衣服を濡らしては肌に纏わりつかせて不快感を与えてくる。我は空を見上げた。
そこには雨雲が星空を隠し、黒々と見下ろしていた。月は見えない。
次に向かうは結界によどみが感じられた箇所だ。そこからヒトクイ妖怪がこの街に入り込んできたのだから。
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