クシミタマ② ~十八日~

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「先日、お前にも見せた通り。普通の少女として生活している」 「何か精神的な異常はないかな?」 「ないな。彼女自身は健全な精神を持ち、日々を平穏に人並みの幸せを享受するように暮らしている」 「精神汚染にだけは気を付けてくれ」  一大計画の実験都市として選ばれたこの街を管理する結界によって、妖怪人間計画は順調に進んでいるのだ。それを乱す波紋を投じた月の妖怪だけが現状気がかりではある。 「例の事件のせいでざわついた周囲を気にして、平穏を望みながらも異変を楽しむという矛盾を抱えているせいか、学校周辺は無意識が揺らいでいるが」 「なるほどね。矛盾か……。妖怪人間自身の脳波に影響がなくても、周囲の人間になんらかの異常が生まれるかもしれないな」 「事件を早々に沈静化させれば、また退屈な日常が出来上がるだろう」  我はそう言い、桂男なる月の妖怪を早急に捕縛せねばならぬと意思を固めなおした。  トイレから出ると己の意識をゆっくりと海に沈めるように消していく。そうすると、宿主の意識がぼんやりと立ち上がってくる。     
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