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それ以上は口に出すべきではないと、我はナノの唇に指先を押し付けた。彼女の気持ちは分かるが、我には殺人犯が別にいる事を分かっている。八房という教師は確かにろくでなしではあるが、人でなしではない。
我はそう思う。それは人間を愛おしいと思う妖怪としての目線からのものであり、人間であるナノに理解させようとは思わない。
少女のナノからすれば、ココロを汚した八房は許せる存在ではないだろう。だが、その憎悪を無駄に広げてはならない。ココロの死はつらいものだが、憎しみで真実を捻じ曲げて考える事は、思想に悪影響を与えるからだ。
「辛い事、話させて……すみませんでした」
「……ん……こっちもごめん。ほんとは、ずっと誰かに言いたかった……打ち明けたかったのかも……。カリンちゃんが聞いてくれるなんて思わなかったけど」
「大丈夫ですか?」
「うん、だいじょうぶ。わたしはみんなが笑っていられる世界が好き。だから、わたしはみんなの事、好きだって思ってる。思いたいんだ……」
「……その思いやりが広がる世界を私も求めているよ」
我は目の前の少女を抱き、その頭を撫でた。このような時代にありながら、健気に生きようとする娘に少しでも幸があるようにと。
四魂を形成するニギミタマとアラミタマ。そしてクシミタマに、サチミタマ。人の精神が生み出すそれは、いつしか直霊と呼ばれる存在へと生まれ変わり、この世を楽園に導いていくだろう。
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