一霊四魂②

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「その、詫びをしたい。お前は、飛び降りる際、月に願った。それは死ではない。死んでいる最中に、顔を出した本当の願いを、私は叶えよう」 「……私の……本当の……、願い?」  ココロは、死んでしまえばもう終わりだと思っていたから、死以上の願いを見落としていた。こうして、精神の奥底を確認するように問いかけられて、死の間際、己の中に浮かび上がった恨みに気が付くこととなった。 「八房を……許せない……」  なぜ、自分だけが苦しみ、その原因を作ったあの男はいつも通りの生活を続けているのだ。  おかしいじゃないかと、ココロは悔しくて涙があふれてしまった。  私が死ぬのだから、あいつだって死ぬべきなんだ。そう、呪ってしまった。自殺を覚悟した時、清らかな心でいることなど、作り話でしかない。その心は歪みに歪んで、凶悪な力を生み出すほどにもなるのだ。  だから、桂男は悔いた。矢張りこの世は病んでいるのだと。そして、自分も地球に落ちてしまった以上、その病を抱え、広めだす感染者に過ぎないと。  桂男は、ココロを願いを聞き入れ、八房の殺害を誓う。そして、ココロは、自らの身体の浄化を求めた。  綺麗な身体で死にたいと述べた彼女は、己の胎内に芽吹く、望まぬ命を享受できなかったのだ。まだ人のカタチを成していない内に自らの中から取り出してほしいと彼女は告げた。     
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