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地球になぜこうも強い重力があるのだろう。引力が働くのは目に見える物質だけではないと、この地に降りてみれば分かる。想いは引かれあう。それを彼はまっすぐに示していた。桂男が知らぬ重みだった。
「一方的な愛は否定される」
「分かってる。でもそれが僕が行動する理由だ」
「愛されずとも好いというのか」
「あんたは、この世界に毒が蔓延してるみたいに言ってるけどさ。無菌状態で保護管理されたって、抵抗力は弱まるんだ。だったら僕らは、もがいて耐性を付けてでも、生きて泥まみれの足跡を残したいんだ。足跡を、誰かに見つけてもらいたいんだ」
桂男は、腹の中の命のカケラに問いかけた。
――どうだ。まだ怖いか、と。
母親の世界に対する悲しみを受けて生まれた命のカケラは、生れ落ちる恐怖に震えていた。今の世を憂いた桂男の心境と重なった胎児の夢は、この世が寂しく覚えて泣きじゃくった。
そんな寿命を吸った桂男は、胎児の純粋な安らぎを求める願いを叶えるために、己の内側にカケラを宿して社会を見て回った。
周囲に張り巡らされた妖気の網に怯え、迫る刑事に迫られて、そんなときに彼は、温かい手で、守ってくれたのだ。
八房を捜すために、高校へと行った時は、誰もが自分を避けた。こちらに気が付いているのに、無関係を装って壁を作った。
世界は冷たい。
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