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だが、今時生徒と教師間の恋愛なんてありえない話でもない。もしかしたら、二人はそういう関係なのかもしれない。これは二人の周囲の目から隠れて行われている逢引なのだとしたら、わたしがここで出ていくのは違うようにも思った。
そりゃ、もちろん、教師が生徒に手を出すというのは、世間的にはいけないことだし、ここは学校だから注意されたって仕方ないとは思う。
でも、人が人を愛する心に、年齢や立場、場所なんて無意味じゃないかとも思うのだ。
これがきちんと合意の上の行為なら、わたしは別に出ていくこともないし、二人の恋愛は自由だと、その時考えていた。
――でも、これが合意の上ではなかったら? 無理やり犯されているのだとしたら?
わたしはそう考えると、どうしていいか分からなくなった。
もういちど、そっと様子を覗くと、吐息を荒く乱す二人が見える。あの表情が嫌がっているのかどうか、わたしには分からなかった。そんな経験もないから。
ただ、いけないものを見ているという感覚だけが大きく膨れて、わたしは結局そこから逃げ出したのだ。
わたしの出した答えは、ケイコちゃんと同じ、『君子危うきに近寄らず』だったのだ。
見なかったことにしようという、逃げが、わたしをそこから動かした。
その日、わたしは何も見てないと自分に言い聞かせ、そして四谷ココロの事も、もう立ち消えた関係のなんでもない間柄だと言い聞かせるようにしたのだ。
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