ニギミタマ④ ~二十三日~

5/9

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
 まず、服を確認した。制服姿をしている。つまり、私は家に帰っていないのだろう。この時計の時刻が本当なら、こんな夜遅くまで帰っていないことに、親が心配しているかもしれない――。  ――そう考えて、本当に心配するのだろうか。と思いなおした。  私は、いつも曖昧で、自分の事すらしっかり覚えていないのに、他人が私の事を気に掛けるだろうか。  私が行方不明だと報道されたとして、どれほどの人が心配してくれるのだろう。  もしかしたら、私はずっとここで独りのまま死んでいくのかもしれない。そんな風に考えてぞっとした。  誰かが私の事を心配してくれているはずだと、そう考えても、この寂しい世界において、誰ほどの人が他人の私を気にかけるのだろう?  意識のない間の私が何をしていたかを気にしてくれる人が、この街にいるのだろうか。  答えは出なかった。  がたん。 「……?」  音がした。外側からだ。  かちん。また音だ。カギが外れるような音だった。  がちり。 「!!」  天井が開いた。 「あ、起きてたか。気分はどうかな」  男性の声だった。全く聞いたことがない男性の声だ。天井だと思っていたのは蓋のようだった。  私が混乱している頭のまま、身体を起こしてやっと自分がどこにいたのか把握した。  どうやら私は車のトランクの中にいたのだ。  目の前には、男性がにこにこと笑顔を作って見下ろしていた。 「あ、あの……」     
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加