ニギミタマ④ ~二十三日~

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 私は、状況が分からずに探るようにそう声を出した。  男性はなんだかとてもにこにことしていて、嬉しそうに見えた。とても機嫌がよさそうで人当たりのよさそうな印象を受けた。 「ええと、M高校二年の二木カリンちゃんであってるよね」 「え……」 「生徒手帳に書いていたよ」 「あ……」  いつも胸ポケットに入っている生徒手帳が抜き取られていて、その男性の手元にあった。 「なんだか、ずいぶんきょとんとしてるけど、大丈夫かな? 夕方のこと、覚えてる?」 「ゆうがた……?」  ぼんやりする頭を必死に叩くが、それでも夕方のことなんて全く思い出せなかった。私はお昼以降、学校が終わってから何をしていたんだろう……。 「あー、やっぱりぼんやりしてるね。まいったなあ、きちんと話をしたかったんだけど」  男性は困ったように頭をかいた。なんだかちょっと演技っぽく見えた。  でも、話から察するに、私は夕方この人と会って、それから何かあったらしい……。  そして、状況が分かってくるにつれ、私は危機感が膨れ上がって来た。  そもそも、私は記憶以前の問題として、なぜ車のトランクに押し込まれていたのだろう。  人をトランクに入れておく状況なんて、あんまりない。  私が思いつく限り、たった一つ――。     
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