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呼吸ができない。ひ、ひ、と喉の奥から、ひきつった声が出てくるばかりで私は酸欠で目の前が真っ暗になりかけた。青い顔で涙をこぼす私を見て、相手の男は口の端から垂らしていた涎をぺろりと舌なめずりする。
まるで、こちらを美味しそうな料理のように見ている様子だった。
「まぁ、つまり、ボクを端的に表現するとなると……」
男の顔が私の目の前にぐいと迫って来た。私の震える瞳を覗き込む濁った黒目が、私の心臓を鷲掴みにするようだった。
「殺人鬼ってところかな」
どうしてこんな事に――。そんな後悔はもう遅い。
殺人鬼と名乗った男は私の髪を乱暴につかむと、その苦悶に歪んだ私の頬をぺろりと舐めた。私が零した涙を舐めとったのだ。
ぞわぞわと恐怖と共に、気色悪さで鳥肌が立つ。
私は自分のこの曖昧な記憶が心底許せなかった。もっと私がしっかりしていればこうはならなかったのに――。
私も、あの四谷ココロ同様に殺されるんだ。
こわい、こわいよ……。
どうして誰も助けに来ないの? 私がいつも陰に隠れていたから? いなくなっても誰も気が付かないの?
分かっていたことじゃないか。私はそういう人間なんだと――。
だが、それにしたってあまりの仕打ちだ。これが私の罪に対する罰なのだとしたら、神様というものを許せない。
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