サキミタマ① ~十五日から十六日~

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 その人は僕と同じ停車駅で降りる。そして同じ方向へ足を進める同じ大学に通う女性だった。一度だけ、僕の隣に腰かけた時から、僕はこの人に釘付けになったのだ。  おそらく、彼女も僕と同じ一年だと思った。なんというか、大学の空気に馴染めていない感覚を纏っていたからだ。  周りにはサークルなどに入って多くの仲間を作ったりしてワイワイと楽しいキャンパスライフを満喫している人が多い中、彼女はどこか孤立していた。  なぜ、僕がこんなにも彼女に惹かれるのかは、明確な理由はなかった。強いて言うなら自分も孤立していたからだろうか。  そしてなにより、彼女が隣の席に腰かけた時、とてもいい香りが漂ってきたのと、可憐な目元と華奢な体が守ってあげたくなるような感覚を持たせたのだ。  今日も僕の隣は空いているが、彼女はそのまま前の席のほうまで歩いて行って、立ったままであった。  残念ながら僕の隣にはでっぷり太ったおばさんが腰かけた。化粧の匂いと雨の臭いが混ざり合い、きつくて少しむせそうだった。  やがて、大学前の停車駅で僕は降車した。彼女も僕の前に降りていて、大学へ向けて傘をさして、歩いている後姿を見ることができた。改めてその後ろ姿を見つめると、まるでモデルのようにも見えた。  細く長い脚は雨に濡れないように気遣ってなのか、ショートパンツのスタイルで、肌の白さがまぶしかった。     
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