サキミタマ① ~十五日から十六日~

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 そう考えると、僕は冷静になってきた。  そして、今後彼女と同じバスで顔を合わせた時、はたまたキャンパスで鉢合わせた時、非常に気まずくなるなと考えた。  きちんとここで謝罪しておこう。僕はそう自分を戒めるように、彼女たちが入っているレストランに入ることにした。  受付を素通りして、彼女たちの座る席までまっすぐに向かうと、まず男の方と目が合った。  男は、こちらに気が付いて、少しぎょっと目を丸くした。当然だろう。イキナリ傘で襲い掛かった男がまた顔を出したのだから。  だから、まず僕は彼女に向けてというよりも、男のほうへと頭を下げ、謝罪した。 「す、すいませんでした。昨日は!」  思わずひきつったような声で謝罪した僕に、男も彼女も驚いた顔をして口を開いたまま茫然とこちらを見ていた。 「あ、ああ。あの時の? いや、いいよ。別になんともなかったから」  男は気が付いてくれたように言って、少し困ったような顔をして謝罪の言葉に笑顔を向けてくれた。  彼女のほうは相変わらず驚いた顔をしたまま、僕をまじまじと見ていたが、もう僕は彼女のほうをまともに見ることはできなかった。  とんでもない勘違いでめちゃくちゃに引っ掻き回しただけの迷惑野郎だったのだから。     
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