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「その、お二人が恋人だと思っていなくて……」
「えっ? いや、違う。違うよ?」
男はそう言って慌てた様子で否定した。彼女のほうも、「はい」とぎこちなく笑顔を作りながら僕に軽い会釈をした。
僕はその言葉に、なんとまた早とちりをしていたのかと更に恥の上塗りをした気分だった。
これはいよいよ妹のことをバカにはできない。今後はもうちょっと妹のことを認めてやろう……。僕も結局血のつながった兄妹なのだから。
「あのう、お客様。ご注文は何になさいますか?」
席の前で悶着していた僕の背後に、ウェイターが愛想笑いを浮かべてメニューを片手に声をかけてきた。
そこで僕ははっとして、ウェイターと、席に座る二人を見比べてしまう。
ウェイターからすれば、待ち合わせをしていた客だとでも思ったのだろう。
オーダーを確認に来たついでに、店内で騒ぐなと釘をさすように視線を僕に投げていた。
「……あ、すいません……すぐ出ます」
僕はもういよいよこの場にはいられないと考えて、おずおずと身を引いた。
すると、男も同調するように「あ、オレも出ます。ここの会計は持ちますから、百田さんはごゆっくり」と彼女に向けて優しい声で言う。
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