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モモタ……。彼女の名前はモモタというのか。下の名前はなんだろう、と、こんな状況でも僕は彼女に未だ食いつこうとしているのが自己嫌悪させた。
「あ、私ももう、でます……。バイトですし」
「すいませんね、お時間取らせて。じゃ、一緒に出ましょう」
そう言って、二人も席を立つ。僕はその中に加わっていいのかも分からず、ぎこちない空気が漂う中、さび付いた歯車みたいに、ギギギと身を回し、退店するのだった。
余計な事をもうするのはよそう。僕はそそくさと、結局いつものイタメシ屋に向かった。
店内に入ると、入り口間際の窓際の席に通されて、水を置かれた。
僕はがぶがぶと一気にそれを飲み干して、気持ちをニュートラルに戻そうと必死だった。
いつものカルボナーラを頼もうと思い、店員に声をかける。
その時だ。視界の隅にまたも彼女が飛び込んできた。
あの、モモタさんだ。
イタメシ屋の前の美容院に入っていく――。
――バイトですし――。
(バイト先……? あそこが?)
僕は凝視していた。美容院の店の名前、そこに入り会釈しながら奥へと向かっていくモモタさんの姿を。
「あの、お客様?」
呼ばれてオーダーを取りに来たウェイトレスが怪訝な顔をしていた。
「あ、えと、ペペロンチーノ」
「はい、ペペロンチーノですね」
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