サキミタマ② ~十三日、十六日~

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 それから、私は警察には行かなくなった。自分自身も、勘違いだったのかもしれないと考えたこともある。そう考えたほうが安心できるから。  あの後ろ姿の写真は警察に預けたっきりでどうなったかは知らない。  あれから私は十九歳になり、大学に通うようになっていた。  実のところ、あれからもずっと何かの視線を感じて生きている。でも、何か明確な被害にあうようなことはなかった。写真が送られてくるようなこともない。  ただ、漠然と解決しなかったあの事件がもやもやと見えない壁のように立ちふさがって私をじっくりと追い詰めるようだった。  ある日、私は人と一緒に食事ができなくなっていることに気が付いた。  『会食恐怖症』というそうだ。自分が食事をしている姿を誰かに見られたくない。誰かと食事をすると、戻してしまうのだ。  食事は自分の口を大きく開く。内側を見せる行為だ。その姿を誰かに見られることが気持ち悪いと感じるようになった。  私はいつも一人で食事をして、毎日を過ごすようになった。人間のコミュニティとは奇妙なもので食事の場で孤立すると、どんどん社会からつまはじきにされていくのだ。  会食恐怖症で、と言ったところで理解されない。  たとえ理解されても、自分の根本は会食恐怖症によるものとは別のところで、何かに恐怖を抱いたままでいた。     
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