ニギミタマ① ~十日から十四日~

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 けして私たちは、世間の声に負けたわけではなく、自発的に、もしくは空気がノらないから帰宅するのであって、言いなりになったわけじゃないという事を理解していただきたい。  若き翼は何人にも邪魔されずに羽ばたきたがっているのだから。  ――それから少し調子を回復させたミドリを待って、私たちはカラオケを後にした。  外に出て空を見上げると、すっかり夕暮れが街を橙に染めていた。  風はちょっとだけ生々しさがあり、雨の香りがしていた。沈む太陽の逆の空を見ると、黒々とした雲がもんもんとかかっていて、本来は月が見える方角を隠していた。 「また、雨が降るね」  そう言ったのは誰の声だったのだろう。もしかしたら私自身だったかもしれないし、全然知らない人だったのかもしれない。  だけど、その言葉が妙に耳に残っているのが不思議だった。  ――そう。これが六月十日の夕方だ。だから、九日の夜が満月だったんだろう。  月は満月、下弦、新月、上限、そしてまた満月と満ち欠けをする。大体この周期が二十九.五日間なんだと。  で、それから四日が経った。つまり、今日は六月十四日。  朝、起きてテレビを見たのだ。  天気予報くらいしか私にとって役立つニュースはテレビから聞こえてこない。そういう認識だった。  だがその日の朝、ニュースから聞こえてきたのは、自分が通う学校の名前が出てきたので、耳を疑った。     
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