サキミタマ③ ~十八日~

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 考えてみればバスの車内でする話でもない。そういう意味で知らないような反応をしたのだろうか。確かに、バスはそれなりに人が乗っているから、声にだして話すにはあまりにも場違いだ。  現に、今、私たちの後ろに座っている五十歳くらいのおじさんが、ギロリとこちらを睨みつけたようだった。げほげほとわざとらしい咳をしてみせて、バスに乗る前にタバコでも吸っていたのかなんだかヤニ臭い。視線の威圧で『うるさい』と言われたみたいで、私は声を落とす。 「……私、大学前で降りるんですけど……」 「あ、僕もです」 「え……あ、そう、ですか」  なぜか嬉しそうに言う彼に、私はちょっと肩透かしをくらったみたいになった。ともかく、同じ駅で降りるというのなら、そこで会話もできるだろう。  なぜ、この男性がバスに乗っているのか、大学で降りるつもりだったのか分からないが、私は後ろの男性の視線が厳しくて、結局そのまま大学前までだんまりを決め込んだ。  それからバスが大学前までつくと、私と隣の青年は一緒にバスを降りた。  私が先に降り、そのすぐ後ろに彼は続く。彼が降りてくるのを待っていたら、彼はなんだか妙に赤らんだ顔でこちらを見つめてくるので、なんだろうかと少しだけ首を傾げた。     
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