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考えてみればバスの車内でする話でもない。そういう意味で知らないような反応をしたのだろうか。確かに、バスはそれなりに人が乗っているから、声にだして話すにはあまりにも場違いだ。
現に、今、私たちの後ろに座っている五十歳くらいのおじさんが、ギロリとこちらを睨みつけたようだった。げほげほとわざとらしい咳をしてみせて、バスに乗る前にタバコでも吸っていたのかなんだかヤニ臭い。視線の威圧で『うるさい』と言われたみたいで、私は声を落とす。
「……私、大学前で降りるんですけど……」
「あ、僕もです」
「え……あ、そう、ですか」
なぜか嬉しそうに言う彼に、私はちょっと肩透かしをくらったみたいになった。ともかく、同じ駅で降りるというのなら、そこで会話もできるだろう。
なぜ、この男性がバスに乗っているのか、大学で降りるつもりだったのか分からないが、私は後ろの男性の視線が厳しくて、結局そのまま大学前までだんまりを決め込んだ。
それからバスが大学前までつくと、私と隣の青年は一緒にバスを降りた。
私が先に降り、そのすぐ後ろに彼は続く。彼が降りてくるのを待っていたら、彼はなんだか妙に赤らんだ顔でこちらを見つめてくるので、なんだろうかと少しだけ首を傾げた。
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