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キャンパスの広場はベンチなどあり、そこでなら会話をしたって不自然な状況にはならないし、広いキャンパス内であれば大声で話しでもしないかぎり、いちいち周囲の学生の会話など気にする人もいないだろう。
「あの、少しお話しませんか?」
「えっ!? い、いいんですか?」
「は、はい。私、ちょっとノイローゼ気味になってしまって、あの時のこと、怖くて」
私が事件の事を話したいとそれとなく誘導すると、男性はやはり目を丸くしてくりくりとさせた。
「あの時の……怖いって……。ああ! あの時のことですね」
そう言って合点がいったらしくこちらに頷いた。どうやら、こちらの話したいことを理解してくれたらしい。
私はできるだけ人目につかないベンチを探して、そこに二人で腰かけた。
「えっと、百田さん、ですよね……?」
「あ、はい。すみません、そういえばきちんと自己紹介せずに」
「あ、いやこっちこそ、探るみたいな真似して……」
おずおずとこちらの表情を窺いながら、彼は私に名前の確認をしてきた。こちらの名前を知っている事を申し訳ないという風に謝ってペコペコと何度も頭を下げていた。
「いえ、お仕事ですから」
「し、しごと?」
「あ、えっと、なんとお呼びすれば……」
「あ、僕、千原です。千原マサオ」
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