サキミタマ③ ~十八日~

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「い、いえ……私がその、『会食恐怖症』なんです……」 「会食恐怖症……?」 「人と、食事することができないんです……。ですから、ごめんなさい」  私が断ると、千原さんは本当に申し訳なさそうに、こちらに対して深々と頭を下げた。 「すみません、ほんと、僕……前からずっとデリカシーなしで……」  ころころとよく表情の変わる人だなと私は彼を見ていると、ちょっとだけおかしくなった。申し訳ないとは思うけれど、素直な表情をころころと見せる姿は小さな子供みたいだと思った。  そしてそれがなんだかとても羨ましくも思えてならない。私がとっくに亡くしたものを彼はまだ持っているのだ。  私は視線に怯えて、いつも自分の顔に仮面をつけるように表情を作り上げる。取り繕った、暗い海の如し表情だ。 「そんなこと、ありません……私が悪いんです。私、ずっと前からそうで……自意識過剰なんです……。誰かの視線を気にして生きて、それで食事すらも満足にできなくなってるんですから」  あまりに彼が素直に言葉を吐き出すから、私も油断をしてしまった。  思わず彼に、自分の中の本音を見せてしまったのだ。何かを過敏に気にしては、自分勝手に苦しむのだ。なんと愚かな話だろうと自己嫌悪で頭痛すらしてしまう。     
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