サキミタマ③ ~十八日~

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「……視線を、感じることが、苦しいんですか?」  千原さんは、そう言って、こちらを見ようとした顔を背けた。視線の話をしたせいだろう。見られることが嫌だと言った私を尊重しての行為だろうか。 「バカですよね。勝手に誰かに見られてるなんて思って、それで神経質になってるんです。それで会食恐怖症なんか患って……」  私が自嘲気味に薄く笑うと、ガードを解いていた自分の心にまた壁が出来上がっていくのを実感していた。  何を語っているのだろう。こんなよく知りもしない男性に。弱みを見せて、気を引こうとでもいうのか。なんとふしだらな女だろう。情けない。恰好の悪い人間だ。ほとほと自分が嫌になる。  そう考えるとどんどん精神が真っ暗な海の底に落ちていく。光もささない世界で、私は何かの気配に勝手に怯えて生きるのだ。  なんて私にお似合いの人生だ。 「――でも、見られることって悪いことばかりじゃないと思うんです」  千原さんが私に、励ますように、けどやっぱり視線は水たまりに向けられたままそう言った。 「どういうことですか?」     
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