サキミタマ③ ~十八日~

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 私が逆に、そんな彼に視線を寄越すことになった。私は彼の横顔をまっすぐに見つめていた。見つめる事はできるのに、見つめられるのは苦手だなんて、やっぱり私は身勝手な人間だと思う。 「毎日、毎日頑張っていても、誰も何も言ってくれない。僕はそんな風に考えてました……。ていうか、今も、そう考えたりします」  今度は彼が自嘲の笑みを浮かべた。その笑みは、なんだか私と似ているとも思った。見かけとかじゃなく、心模様が、というべきだろうか……。 「こんなに頑張ってるのに、誰も気が付いてくれないって。誰も僕の事を見てくれる人なんかいないって、そう思ってます。僕、妹がいるんですけど、全然会話なんかしないんです。まるで僕のこと、空気か何かみたいに思ってるんでしょうね」  ははは、と乾いた笑いをする彼に私は気の利いた返しもできず、ただ横顔を見つめていた。 「きっと、世界は僕一人いなくなっても、なんにも変わらない。僕は、無視されるだけの人生なんだろうなと、なんとなく考えてます」 「……真逆、なんですね、私と」 「どうでしょう……。でも、だから、僕はあなたのその視線を感じるってことが……羨ましいなんて思ったんです。あ、気を悪くしないでくださいねッ……!」 「いえ……私こそ、おかしな話をしました……ごめんなさい」 「あ、いやそのそういう意味で言いたかったんじゃなくてっ……」     
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