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千原さんは、慌てふためいて、その時はこちらを向いて、ばたばたと掌をふって謝罪し、「あー。うー」と言葉に詰まったようだった。
だから、ええと、と言葉を探す彼は、なんだか妙に必死で、赤い顔をしていた。
「その……いつも、あなたを見ていました」
「えっ――?」
千原さんが懸命に言葉を選んで出したそれに、私は思わず目を丸くし、聞き返してしまう。
「百田さんは、気が付いていなかったと思ってましたが、僕、いつも同じバスでこの大学で降りてました。いつも車内であなたを見て、いました……す、すみません」
「ど、どうし、て……?」
「それはっ……その、気になっていたから、と申しますか……」
「だ、だって……いつも同じバスって……、え……?」
この千原マサオという男性のどうにも腑に落ちなかった違和感のようなものが、ここにきて、存在感を増したように思った。
私はとんでもない勘違いをしているのだと、気が付き始めた。そして、ほんとうにおっちょこちょいなのは、誰だったのかを分からされてしまうことになった。
「は、春にこのMキャンパスに通いだして、それで一度だけ、今日みたいに、一緒の席で隣に座ったことがありましたっ」
「えっ、えっ……刑事さんじゃ、ない……の?」
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