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サキミタマ④ ~二十日、二十一日~
「……お前彼氏とかいんの?」
風呂上がりに、僕は妹に声をかけてみた。
それは僕には意味のある言葉だった――。
好きな女性に、初めてきちんと話ができた。そしてその日に、彼女とは二度と会う事はないのだろうと、恋心は叩き潰された。
僕が好きな女性は、視線に怯えて過ごしていたらしい。それが僕の熱いまなざしを受けての物だと知り、僕はもう彼女に辛い思いをさせたくないと考えた。
だから、犯人は僕だった。悪気はなかったし、今後は一切に傍に近づかないようにすると弁明した。
彼女はその言葉を理解してくれたのかは分からないが、一度だって僕を見ずに、逃げるようにその場から立ち去った。
――終わった。
僕は完全にその恋を崩壊させたと思っていた。でも、きちんと伝えたかったのだ。視線を怖がる自分を酷く卑下していた彼女に、きちんとあなたの美しさを見ている人がいるのだという事を。
……そうじゃなければ、僕はなんなんだろうと考えてしまうから。
僕は生まれてこの方、誰かの視線を感じた事なんて一度もない。物語の主役にはなれず、世界にたくさんいる人間Aでしかない。いや、AどころかJとかMとかもっと、半端なところの人間だ。
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