アラミタマ① ~十三日~

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 五十嵐警部のその意見に、オレは溜息をついたが、間違ってはいないとも思った。初動が最も重要な殺人事件の捜査は時間勝負であることに間違いはない。しかしながら、色々と発言内容に問題のある先輩だ。エリートじゃない叩き上げって感じはするが、ハゲた警部がどうして警部どまりなのか納得できる。  オレはふと見上げた夜空に、丸い月が浮かんでいるのを発見した。 「今夜は満月だったのか――」  なるほどな、とオレは腑に落ちた。  満月の晩は、異常犯罪が増えると昔どこかで読んだことがある。  オレも色々と無残な死体を見てきたが、こんなにも酷い有様の死体は初めてだった。異常性という自分のなかの線引きから逸脱したモノにはなんらかの理由をつけたくもなる。それができる限りファンタジーであればあるほど、自分の常識が守られるようにも思えるのだ。  自分自身の価値基準からはみ出ているものは、気持ちが悪い。だから、それらは己の世界観にはそぐわない存在なのだ。  この異常犯罪者もまさにそうだろう。こんなものは許せない。あってはならないのだ。ファンタジーであってほしい。満月のせいであってほしい。これが同じ人間の仕出かした事だなどと、考えたくない。  オレは使命感を燃やして、この事件の犯人を捜す事にした。  このような犠牲者をもう二度と出さぬように――。  ――その後の調査により、四谷ココロという少女の人間像が見えてきた。     
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