アラミタマ① ~十三日~

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「はい。いつも仕事が終わって、バスを使って帰るんですけど、すぐそこのバス停で降りて、自宅まで歩くんです。ここの住宅地を抜けるとアパートがあるので、ほぼ毎日あるく道なんです。それで、最初は向こう側から歩いて来たんですけど、壁に何か黒いものが寄りかけてあるなと遠くから見て思ったんです。なんだろうと思って、ちょっと怖かったから警戒しながら近づいていくと……それがうずくまってる女の子だって分かったんです」 「壁を背に、うずくまる状態で発見したということですね」 「はい。最初はお腹が痛くて、苦しんでるのかなって思って、心配して声をかけようと思ったんですけど、改めて見て…………それで……」  百田さんはそう言って、思い出したのか更に顔を青くし、口元に手を持って行った。無理もない。かなり酸っぱいものがこみ上げる遺体だった。  彼女の話を聞いて、改めて現場を思い返す。  住宅地であり、多数の一戸建てが並ぶベッドタウンの見本のような一画で、狭い道がいくつも並んでいる。坂道が多い処に作った住宅地であるため、段差がいくつもあって、左手側に民家が並び、右手側には二メートルほどのコンクリの壁がある。そのコンクリの上にはまた一戸建てが立ち並んでいる造りをしている。  そのコンクリの壁にはいまだに生々しい血痕がべっとりついている。  状況を見て、こんな住宅地の真ん中でどうして誰も気が付かなかったのだろうと考えた警部の言葉には頷ける。 「何か怪しい人だとか、物音だとかありませんでした?」 「い、いえ……何も……」 「どんな些細な事でもいいですよ」 「……月が……」 「え、月? ああ、満月ですよね」     
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