アラミタマ① ~十三日~

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「いえ、今日は満月じゃありません。ほんとの満月はたしか三~四日前だったので。少し欠けてますよね?」  そう言われてオレは窓を開いて顔を外へ出してみた。上空に浮かぶ月は丸く見えたが、なるほど、改めて見るとまん丸ってこともない。楕円形をしている。日頃月などきちんと見ていないせいだろう。若干欠けていようが丸みがあれば満月だと判断してしまったのだ。最近は雨も多いし、雲がかかっているから月の満ち欠けなんかなおの事、曖昧だった。 「えー、それで月がどうしたんですっけ?」 「……月が妙に気になったんです……」 「どういう、意味ですか?」 「……あの、私美容院で働いているからかもしれないんですが……普段からよく鏡を見るんです」  百田さんの急な話の切り替わりに、オレは何事かと思ったが、黙ってその話に頷いた。  確かに美容院や床屋といった散髪をする場所は、客にもきちんと見えるように正面に鏡がある。 「鏡があるから、よく自分の姿が目に入ります。だから、とても自分の容姿に気を遣うんです」 「ああ、分かる気がします」 「……その、鏡に映る自分の視線を、自分で感じるという感覚は分かりますか?」 「え……?」 「常に、視線を感じるんです。いつも誰かに見られているような気持ちになる……というか……」     
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