空洞を覗く

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私は会社の名前に傷がつかない範囲で話をしました。今思えば、相手が会社名を知っている時点で、既にアウトですが。 昨年いた部署でお世話になり、尊敬していた上司にある疑惑が浮上したこと。それに関わる資料を自分が用意することになったこと。その内容次第では、上司は処罰されるかもしれないこと。恐らく、会社側から自分も疑われていること。 理穂さんは、その上司の人を信じたいんですか? 今まで黙って聞いていた彼は、一言だけ質問しました。私は、恐らくそうだと答えました。正直に言えば、自分の感触でも上司は黒でした。例え今回のことがなくても、恐らく部下への働かせ方など、コンプライアンス上、引っ掛かる部分は出てくるでしょう。それだけ、そばで見てきたのです。約2年間の間、あの人の働きぶりを。確かに無茶ぶりがひどく、計画性がないのか、この人はと何度叫びたくなったか知れません。会議の数が多すぎる、指摘が細かすぎる、など部下からの不満も多く上がっていました。決して理想的な上司ではありませんでした。しかし、あの人には教育への熱がありました。こどもの目の色を変えたい。その為には、この国の教育自体を変えないといけない。いつだったか、そう話してくれたあの人の目は確かに本物だと思ったのです。
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