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夜も更けて皆が帰っていく。セルジオも散々楽しんだのだろう。「また来るわ!」と上機嫌に手を振って帰っていった。ただ、帰り際に
「フォローしとけよ!仲良くな!」
と俺に囁いたのが気になる。なんのフォローだろうか。
一緒に見送りに出て、隣に立っているニコラをそっと見上げる。ニコラも視線を感じたのかこちらを向きかけて――目を反らした。普段のニコラではあり得ないその仕草に戸惑う。
「え、ニコラ?」
「あっ、いや、んー」
言いづらそうに尚も目線を合わせないニコラに不安になってくる。
「…ニコラ?」
そんな俺の不安が声にも出てしまっていたのだろうか。再度名前を呼ぶと、はっとしたように一瞬こちらを向いて俺の腕を掴んだ。
「…とりあえず入ろう」
そのまま店の中まで引っ張られて、腕が離されたかと思うとすぐにきつく抱き締められた。
「あーごめん」
未だにニコラの表情は見えない。
「ニコラ?ほんとにどうしたんだよ」
怒っている、というわけではなさそうだ。けれどこの雰囲気はなんだろう。普段とは明らかに違うのは確かなんだけどなにかわからなくてもどかしい。ニコラのことは全部わかりたいのに、わからない。それがもどかしいんだ。
「…セルジオ君はさチハルのことほんとによく知ってるよね。チハルもセルジオ君になんでも話してるみたいだしさ」
俺を抱き締めたまましばらく黙っていたニコラがぼそっと言葉を落とす。その内容に戸惑う。
「え、セルジオ?」
「…長いこと一緒にいるんだもんね。俺と会うずっと前から」
ぼそぼそと言葉を繋げる。それがニコラに似つかわしくなくて俺はニコラの背中に腕を回して力を込めた。
「なんか…俺が知らないチハルを知ってるんだって思ったら悔しくなっちゃった」
そうか。ニコラが言いたかったのは、思っていたのはこれか。でもこれって
「…嫉妬、してくれてんの?」
俺が言うと、更に腕の力が強まった。
「うー、ごめんねほんとに。情けない…」
ニコラが俺のことで嫉妬してくれてる?それってなんか…ちょっと嬉しいじゃないか。嫉妬する側はすごく苦しいっていうのは知っているけれどしてくれてるって嬉しい。ニコラは優しいから余計にしんどいんだろうけど、ごめん。俺は今すごく嬉しいって思っちゃってる。勝手に頬がにやけるのを感じる。
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