番外編 めぐりめぐる

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いや、俺もニコラに負けないくらい驚いてるよ。まさか俺の母さんがニコラに料理を教えたことがあるなんて。この広い世界の中、俺達が出会えたことがもう奇跡だと思っていたのに、まさかこんなことがあるなんて。 イタリアに引っ越してきた頃を思い出す。母さんとの会話も思い出してまた笑う。 「そうだ、確かに母さん言ってたよ。最近私、若い男の子に料理を教えてるのよ。その子すごいイケメンなのよって。父さんがどんな子なんだって聞いたら母さんが、すっごくいい子なのよ。雰囲気がね、春の日差しみたいなの。花を咲かせるような、皆をふわっと包み込むような優しい優しい笑顔と言葉を持った子なのよ。って言ってた。父さんがそれ聞いて嫉妬してさ。ははっ懐かしいなぁ」 ニコラの表情が一瞬泣きそうに見えて、でも嬉しそうにふわっと笑った。あぁ、これが母さんが言ってた春みたいな笑顔ってやつなのかな。だったら俺もその意見に賛成だ。ニコラの傍はすごく暖かいんだよ、母さん。母さんももしかしたら知ってたのかもしれないな。 「このレシピの字も絵も。どこか既視感あるなと思って考えてたんだ。通りで見覚えがあるはずだ。母さんの書いたレシピだったんだ」 家族3人で囲む食卓。そこで楽しそうにこの話をしていた母さんを思い出す。料理を教えていたのがニコラだったなんて今の今まで思いもしなかったけれど。 「俺も会ってみたいって父さんが言ったらさ、今は修行中だからダメよ、その子がお店開いたら皆で行きましょう。それまでは私とその子の秘密よ、って。昔から茶目っ気ある人だったからなー。…結局その後1年もしない内に二人は死んじゃって知らないままになってた。けど今繋がった。母さんが料理を教えた“あの子のお店”俺はもう何回も行ってる」 こんなところであの時の約束が果たされるなんて。
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