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嬉しくて、でもどこか切なくてちょっと泣きそうになりながらニコラを見る。目が合うとぎゅっと抱き込まれた。痛いくらいにぎゅうぎゅう抱き締められて、ニコラの背中をなだめるように叩く。
「いつかお店開いたら来てもらいたいってずっと思ってたんだ。どこかで会えないかなってあのカフェに行くとちょっと探してみたりしてさ。そっか俺の望みは叶ってたんだね」
ニコラの柔らかい声が降ってくる。
うん、と抱き締められながら頷くとニコラが、嬉しいなぁと小さく呟いた。
うん、俺も嬉しいなぁ。もう会えないと思っていた父さんと母さんに思いがけないところで出会った気分だ。思い出でしかないけれど、俺の他にちゃんと覚えていて、そして大切にしてくれている人がいる。そのことが頭でも心でもわかって、切ないのに嬉しい。
「確かにユウコさんって茶目っ気たっぷりな人だったね。今ごろになってこんな嬉しいことがわかるなんてさ、なんかユウコさんのいたずらにひっかかった気分だね」
ふふっとニコラが笑う振動が腕から、背中から、胸から響く。
目を閉じていると母さんがよく見せた、悪戯っぽい笑顔がぱっと瞼の裏に浮かんだ。懐かしいなぁ。あの笑顔で父さんも俺もどれだけ振り回されたことか。それがどれだけ楽しかったことか。
「なーんかしてやられた気分だな」
ニコラの腕から抜け出てははっと笑うと、ニコラもまた笑った。
「ニコラの作った日本料理は懐かしい味がする理由がわかった。基本は母さんが教えたんだもんな。正真正銘お袋の味だったわけだ」
いつか食べたニコラのだし巻き玉子も、肉じゃがも。日本の味だから懐かしいわけではなかった。母さんの味だからだったんだな。
「知らない内に嫁入り修行してたってこと?」
「ははっ、嫁って」
「お母様の味を身につけて、旦那に作ってあげたいんです」
ニコラの裏声での台詞に二人して大笑いする。
「不甲斐ない息子ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「あははっ、どういうキャラなのそれ」
俺も裏声を作って言うと、ニコラが笑い崩れた。
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